ばいおぐらいふ

出戻りジャニオタの、たわごと。

「1時間前の憂鬱」~ジャニヲタ文芸部 第1回お題「チケット」~

ジャニヲタ文芸部 第1回に参加しました。

11月のお題が発表されたので参加です。
今月のテーマは「チケット」だそうです。ichigonokimi.hatenablog.jp

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「1時間前の憂鬱」

改札を出た途端、憂鬱な気分になった。
うきうきしていた気分はそこに広がる光景によって打ち消されていく。
若い女の子が、赤、青、黄色、オレンジと思い思いの色を纏い、中には頭にお花を咲かせている。
新宿、渋谷、原宿の人混みでさえ辟易してしまうのに、年齢が自分よりずっと若い女の子がこれだけたくさんいるのだ。
私はカバンから少しだけはみだすうちわの柄を押し込んだ。

ここに住んでいる人たちは今日のことをどう思うのだろう。
色とりどりの女の子が列をなして一つの場所に向かっていく。
同じ服装の二人や、ウェディングドレスのような真っ白なドレスを着た女の子。
ここは夢の国でもないし、ましてや今日はハロウィンでもない。
この列のことを、すれ違う人たちはどう思うだろう。
温かく見ているのか、いや冷ややかな目を浴びせているのだろうか。
そんなことを考えてその列に加わる。うちわの柄は時々飛び出してしまうからまた押し込む。

会場に着くと、駅で感じた憂鬱は更に強くなった。
ずっと若い女の子が、うちわを持って自撮棒を伸ばして記念に写真を撮っている。
きっとこれをinstagramtwitterに載せて、みんなに自慢するのだろう。自分の顔を載せるリスクを考えずに。

自分がここにいて本当にいいのか?
年齢層合っていないけどいいのか?
白い目で見られてないか?
そうした不安をかき消したい。かき消したいから、水色の封筒を取り出す。
自分の名前、今日の日付、座席番号、そして大好きな彼らの名前。
その紙は、自分がここにいることが正解だと、教えてくれるようだった。

スーツ姿の係員にその紙と、カバンの中身を見せても、見える光景は変わらなかった。
けれどいる人の浮き足は立っているし、自分の心臓も少し高鳴る。
もう、カバンから出るうちわの柄を気にする余裕もない。

ドアを開けると出迎える舞台、撮影禁止と叫ぶ係員の声。
自分の席、埋まっていく席。
響くコール、止まらないコール。
そして、
消える照明、割れるような声援。
うちわの柄をカバンから引き抜いて、これから始まる幸せにどっぷりと浸かる。


1時間前の憂鬱なんて、小さな紙で吹き飛ぶ。